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2021年9月6日

菅首相の退陣表明で日経平均は急騰、29,000円台に乗せる

鈴木一之

◎日経平均(3日大引):29,128.11(+584.60、+2.05%)
◎NYダウ(3日終値):35,369.09(▲74.73、▲0.21%)

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鈴木一之です。8月があっという間に過ぎ去り、9月相場が始まりました。感動の東京パラリンピックも閉会式を迎えます。秋の気配をぐっと身近に感じます。

月末月初を迎えた先週の株式市場は大きな変化が見られました。

9月3日(金)、自民党総裁選に出馬の意欲を示していた菅義偉首相が立候補を断念し、首相退陣を表明しました。週明けから堅調な動きとなっていた株式市場は、このビッグニュースによって上昇幅を拡大し、日経平均は金曜日1日で+584円も値上がりしました。

週末でもありますが、終値で29,000円の大台を回復しました。6月28日以来のことです。8月半ばから金融市場にはありとあらゆる変化が一度に押し寄せて、それをひとつずつ吸収・消化することに終われていました。

最近の主な変化は以下の通りです。

(1)デルタ株の感染拡大、重症者数は過去最高を更新、自宅療養中の死亡増加
(2)自民党総裁選が前倒し、衆院選の「顔」選び、政局の流動化
(3)カブール陥落、タリバンが政権奪取、米軍の撤退完了
(4)米FOMC議事録、ジャクソンホール通貨でテーパリングは急がずとの観測に
(5)半導体不足とデルタ株拡大で、トヨタは9月に4割減産、年間では変更なし
(6)商品市況がそうじて下落、中国の景気鈍化懸念、物価高が徐々に生活圏に浸透

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これほどの変化が一度に押し寄せることはきわめて珍しいように思います。最近では(4)の米国の金融政策、テーパリングの行方に市場の関心が集中しており、さらに(1)のアフガン情勢、地政学的リスクの動向にも神経をとがらせていました。

それに対して(2)の国内政局の動きに関しては、水面下での動き、政権の座を賭けた自民党内の密室の駆け引きが中心となっていただけに、高い関心を抱きながらも実際には動きがよく見えない、わからないという状態が続いていました。

しかしそれもタイムリミットが迫り、先週はついに水面下から水面上に浮上して事態が動き出したという要素が大きいように見えます。

タイ、マレーシア、南アフリカをはじめ各国で起きている政情不安は、遠因にはやはりコロナによる経済の急激な落ち込み、格差社会の底辺に近い層に蓄積する国民の不満の爆発があります。その根底にはまぎれもなくコロナウイルスの感染拡大の影響があります。半導体不足や海上運賃の高騰もコロナ禍が多分に影響しています。

先週の日本の政局の流動化も、起こるべくして起きたということになるのでしょう。クーデターや大規模な市民デモ、武力衝突という形は取っていませんが、内閣支持率が記録的な低下を示し、東京都議会選での与党苦戦、東京オリンピック・パラリンピックの開催を巡る世論の分断、そして8月末の横浜市長選における菅首相肝いりの候補者の大敗。民意は着実に示されています。

衆院解散の時期に関しては、ワクチン接種が軌道に乗って、1000万人を突破した6月初旬には「9月解散」との見方が定着していました。菅政権はワクチン接種とオリンピック開催で勢いをつけて、自民党総裁選よりも衆院選を先に実施して、そこでの勢いに乗って総裁選は無投票で一気に通過する、というのが菅・二階ラインが当初描いていたメインシナリオです。

それが横浜市長選での大敗で自民党内からも不安と不満が噴出し、8月第4週からは「総裁選前倒し」に大きく方向が変わりました。さらにひっくり返されそうになったのが先週火曜日です。当初のように「9月中の衆院解散」が急浮上し、8月31日(火)に株式市場は後場から大幅高となりました。これによって月末の1日、なぜか株価が安くなるジンクスが1年ぶりに覆されました。

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菅首相では総選挙は戦えない、との声が自民党内に充満しており、「9月中の解散」はわずか1日で立ち消えとなりました。9月1日(水)の午前、早い時間に菅首相みずから「最優先はコロナ対策。いまは解散できる状況ではない。総裁選の先送りは考えていない」と否定のコメントを出さざるを得ませんでした。

この一言で水曜日の株式市場は、一時上げ幅を縮めましたが、大引けでははさらに上昇幅を広げました。総裁選に明確な意欲を示していたのはこの時点では岸田文雄・前政調会長だけで、まだ政争の帰着はどちらになるのか、明確ではなかったと見られます。

二階幹事長を交代させ、下村博文政調会長の出馬も断念させるという策を繰り出してまで、菅首相みずからが続投に強い意欲を示していた様子でした。株式市場はいつものように「解散総選挙、イコール株高」という構図で走り出していたように映ります。

一方でデルタ株の感染拡大は、さらに深刻な状況となっています。ワクチン接種では高齢者の方を優先していますが、後回しにされている10~20代の若年層に感染が急速に広がっています。

全国で夏休みが終わっても新学期が開けない、あるいはリモート授業にせざるを得ない小・中・高校が続出しています。リモートではどうしても学習の達成度に差がついてしまい、それがまた格差を助長するとの批判が寄せられています。東京都が実施した300人程度のワクチン接種枠をめぐって、先着順や抽選券を手に入れるために早朝から長い行列を作る若者の悲痛な声・姿が全国ニュースで何度も流れました。

若年層以外でも、ウイルスに感染して自宅待機を余儀なくされている患者さんが過去最高の13万人に達しています。時短を求められる飲食店は経営が限界に達し、就業時間を順守しないお店が急速に増えています。時短協力金の支給が遅れていることが一因で、国民の不満はマックスまで高まっていました。

このような状況に至っても、誰かが書いた原稿を読むだけの菅首相には、十分な説明責任を果たしていないとの批判が高まっています。国民とのコミュニケーションが決定的に不足しており、それが内閣支持率の低下となって表れており、現状での衆院解散・総選挙は自民党にとって圧倒的に不利との危機感が若手議員の間で広がっています。

そして迎えた9月3日(金)、午前中に菅首相が総裁選に出馬しないとの意向を執行部に伝えたと、昼休みの間にニュースが流れました。これを受けて、閉塞感が取り払われるとの期待から株式市場はすかさず反応し、広範囲な上昇で週末の取引を終えました。日経平均は29,000円の大台を回復しています。

結果論ですが、海外市場との比較で日本株が割り負けしている状況は、菅首相が退陣表明することで、それまでの重石がいっぺんに取り払われたことになります。ここから一気に、とは言い切れないものの、これまでの割り負け感を修正する動きが今後も出てくると予想されます。マーケット参加者の一員としてそれをひたすら願うばかりです。

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先週の東京株式市場は、TOPIXは大きく続伸しました。上昇率は+4.49%に達し、今年2月第1週の+4.54%以来の大きさです(この時は「ロビンフッド・ショック」の翌週で事態が急速に好転した時でした)。

物色は大型株から小型株まで幅広く上昇しましたが、中でも大型株に集中しています。国内外の機関投資家の動きが活発化していることがうかがえます。それでも東証マザーズ市場も+2.29%の上昇を記録しました。東証REIT指数は2週続けて値下がりしました。

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TOPIX-17業種のセクター別の騰落では、値上がりセクターは16業種まで広がりました。値下がりセクターは「運輸・物流」の1業種だけとなっています。

値上がりセクターのトップは「鉄鋼・非鉄」です。2週続けて上昇率のトップとなりました。鋼材市況の値上がり、高止まりが続いており、JFEホールディングス(5411)の業績上方修正、アナリストからの投資判断の引き上げなどをきっかけに、セクター全体に収益回復期待が強まっています。

値上がり第2位が「機械」です。原材料価格の上昇と中国の景気鈍化懸念で、機械セクターの主力銘柄は春先から軟調な動きを余儀なくされていました。それが先週はツガミ(6101)、アマダ(6103)。DMG森精機(6141)、そしてファナック(6954)までがぶっ飛び状態。トヨタの減産の影響が深刻なものにならないとの楽観も手伝っているようです。

値上がりセクターの第3位は「電機・精密」でした。レーザーテック(6920)が史上最高値を更新し、半導体関連株が再び一斉に動き始めています。米国でもアップルが史上最高値を更新しています。

電子部品の態様優先(6976)、村田製作所(6981)、ヒロセ電機(6806)から、日立(6501)、富士通(6702)、

(後略)

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鈴木一之