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2021年2月8日

ゲームストップ株の乱高下が収束、ワクチン相場続く、米国は最高値を更新

鈴木一之

◎日経平均(5日大引):28,779.19(+437.24、+1.54%)
◎NYダウ(5日終値):31,148.24(+92.38、+0.29%)

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鈴木一之です。NY株式市場が急回復しています。ゲームストップ株の乱高下に翻弄されて先々週は1週間でNYダウ工業株が▲600ドル以上の下落を2日も経験するほど動揺していました。

空前の高値圏に株価が位置しているためか、わずかな羽ばたきの音にも驚くという感じです。しかしその動揺をわずか1週間で克服して、S&P500とNASDAQは再び史上最高値を更新しました。

今回の株価下落はあまりに突然のこととして起きました。ロビンフッドを経由した個人投資家の大群がヘッジファンド、シトロン・リサーチの空売りポジション目がけて一斉に買い向かい、シトロンが窮地に陥るとの見方がきっかけでした。

シトロンは損失を回避するために主力銘柄に売却が広がる可能性がある、あるいは損失が大規模に広がるとヘッジファンド自体が資金的に行き詰り、それが信用不安につながる。様々な憶測が飛び交い、それがマーケット全体を揺さぶるまでに広がったのが先々週の動きです。

しかし事態が落ち着いてみれば、下落局面では下値での買い意欲の強さが確認されただけで、米国の株式市場は下落分をわずか1週間ですべて取り戻しました。株価の急落にはすかさず押し目買いが入ってきます。週末の日本経済新聞によれば、2月3日までの1週間でテクノロジー系ファンドには過去最大となる42億ドル(4400億円)の資金流入があったそうです。

テクノロジー企業ばかりでなく、米国でもディアーやエマーソン・エレクトリック、イリノイ・ツールワーク、ドーバー・コーポレーションなど、景気動向に反応しやすい資本財銘柄が史上最高値付近でしっかりした値動きを維持しています。

米国の株価上昇の背景にあるのは、
(1)バイデン政権下での巨額の財政支援
(2)FRBによる量的金融緩和の長期化
(3)急速なワクチン普及による経済正常化への期待
(4)テクノロジー企業を中心とする企業業績の改善
という4つの大きな支援材料です。ゲームストップ株が乱高下したくらいではびくともしない構造ができあがっていることがあらためて確認されました。

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今回の米国株の急落を招いた元凶とされるゲームストップ株は、ほとんど市場の話題に上ってきません。一時は単日でアップルの売買代金を超えるほどの人気を集め、先週末も8000万株を超える出来高を記録しましたが、投資家の関心は急速に遠のいています。仕手っぽい値動きをする銘柄はそういうものです。

それでも油断はできません。マーケットを大きく揺るがせた今回の一件によって、米国の金融当局の間では個人投資家が共闘を始めた舞台のSNS「レディット」やオプション売買に関する規制を強化する動きが浮上しています。

バイデン大統領が率いる民主党政権は、ウォール街に対して厳しいスタンスを取る方針がもとから懸念されています。それが政権発足早々から現実化しかねない情勢です。

2月18日にはゲームストップ株の乱高下に関して下院が公聴会を開催することが決まりました。まだこの続きの一波乱があるかもしれません。

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一方で今回のゲームストップ株の動揺は収まったものの、それ自体は事態の本質ではないという見方も根強く存在します。より本質的な問題はロビンフッドそのものだ、という指摘です。

ロビンフッドは売買手数料が無料のスマホ専用証券会社です。売買を高速取引業者やヘッジファンドに取り次ぐことできわめて小さな利ザヤを得ており、大量に売買することによって成り立っています。それが手数料無料の原資となって事業を成立させています。

今回のゲームストップ株の一連の「事件」の過程で、同社株の売買をストップするという措置を取りました。これがヘッジファンドを利する行為に当たり、顧客である個人投資家よりもヘッジファンドを守ったとの非難の声が挙がっています。

しかしより本質的な部分では、ロビンフッドが決済機関に求められた30億ドルの預託保証金が支払い不能になる恐れがあった模様です。預託金の金額は売買高に比例して決まり、売買日から受渡日までの間、清算機関に預託金を預けなくてはなりません。

ゲームストップ株をはじめロビンフッドを経由して失効される売買高が急増したために、ロビンフッドは清算機関から30億ドルの預託金の差し入れが求められました。この金額をロビンフッドが調達できるかどうかが、市場の大きな関心を集めたようです。

集められなければロビンフッド経由の取引は失効されません。企業として存続できるかどうかが問われるギリギリのところに立たされました。ロビンフッドは1月末から2月1日にかけて、取引銀行の与信枠とベンチャーファンドからの出資で34億ドル(3500億円)を調達して預託保証金を収めました。ゲームストップ株の売買は再開され、マーケットは何ごともなかったかのように冷静さを取り戻すことができました。

今回の一件であらためてロビンフッドという、個人株式取引の主要インフラとなった証券会社が実は極めて脆弱な基盤に立たされているという認識が形成されたように思います。かつてない規模の金融緩和が長びいているために、想像もしなかったところから綻びが生じる機会が増えています。

今回のケースでは、ロビンフッドが自らの力で危険な局面を回避しましたが、株式市場が空前の活況を呈する中にあって、ところによっては綱渡りの危うい状態が広がっていることは認識しておかなくてはなりません。それが今回の教訓です。

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コロナウイルスとの戦いは世界中で続いています。中心は世界最悪の感染拡大がみられる米国です。米国の1日あたりの死者数は2月4日に過去最大の5084人を記録しました。

それだけにワクチン接種が急務となっています。全米ではこれまでに2790万人が1回目の接種を行いました。ニューヨークのヤンキースタジアムすら接種会場に使われている映像が世界中に流されました。

バイデン大統領は3月にも失効する現在の支援策を埋める1.9兆ドルの経済対策を急いでいます。議会との折衝は週明けから再開され、上下院で優勢さを保つ民主党の力が試されます。

綱渡りの印象はぬぐえませんが、それでもコロナ対策に関する朗報が先週は立て続けに明らかになりました。

ひとつはジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)がFDAに開発中のワクチンの緊急使用許可を申請したことです。これが承認されればファイザー、モデルナに続く3例目のワクチンが生まれることとなります。

しかも2回接種する必要のある前2種のワクチンとは違って、JNJのワクチンは1回の接種で有効となります。承認されれば今年中に10億回分の生産が可能とされています。

そして世界最速で接種が進むイスラエルからも、優先的に接種した65歳以上の高齢者の8割、75万人に対して2回の接種が終わり、陽性が確認された例は過去3週間で41%減少したとの報告がありました。

イスラエルは3月末までに900万人にのぼるすべての国民に2回の接種を終えるという、世界最速の目標を掲げています。イスラエルのこれまでの報告により、ワクチンを接種すれば実際にウイルスの感染は防ぐことができる、という事実認識が世界共通で確立しつつあります。

それは同時に、次々と生れるウイルスの変異種の拡大スピードとの競争でもあります。

日本では接種がまだ始まってもいません。始まったとしても住民基本台帳だけでスピーディーな接種が可能なのかという不安も残ります。

それでも希望はあります。英国のアストラゼネカがワクチンの製造販売の申請を厚生労働省に出しました。ファイザーに続いて国内では2例目です。

アストラゼネカのワクチンはセ氏2~8度での冷蔵保存が可能とされ、早ければ3月中にも製造認可が下りると見られています。

国内の感染者数は累計でついに40万人に乗せ、死者数も6200人を上回りました。東京だけで1000人を超える人が亡くなっています。

それでも東京の新規感染者数は、緊急事態宣言が出された1月7日の2447人をピークに、それ以後は減少傾向をたどっています。2月6日は639人で、これで9日連続で1000人を下回りました。緊急事態宣言は1か月の延長が決定しましたが、徐々に外出自粛の効果が出始めています。

病床のひっ迫度は変わっておらず、依然として状況は厳しいままです。それでも現在の減少ペースを維持して、感染爆発を抑えつつワクチン接種が始まるのを祈るばかりです。

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株式市場の動きですが、2月第1週の株式市場はTOPIXが大きく反発しました。上昇幅は+4.54%に達し、昨年11月第1週(米大統領選の週)に記録した+5.01%以来の大きさとなりました。前の週の下落がそっくり埋められてTOPIXベースでは直近高値を更新しています。

物色の方向性としては、前の週とは打って変わって大型株物色が復活しています。大型株ほど上昇が大きくなっており、かつバリュー株の物色が目立っています。売り込まれていた出遅れバリュー株が一斉に上昇しています。

バリュー株の大半がコロナ危機で売上げが急減した外食、アパレル、ジム、航空会社、旅行代理店、チケット販売、介護ビジネスです。それらがワクチン接種の拡大ないしはその期待から一斉に上昇を遂げました。

それに付随して、これまでずっと続いていた「物色の二極化」が急速に解消する方向に向かっています。売られた銘柄が買い直され、これまで買われていた半導体・電子部品などの銘柄が下がりやすくなっています。

二極化が解消に向かう結果として、値上がり銘柄の数が増加基調にあります。先週火曜日の東証1部の値上がり銘柄数は1730銘柄に達しました。これは1月8日の1725銘柄を上回って今年最も多い値上がり銘柄数となっています。

株価の上昇ほどには上昇していなかった騰落レシオがじわじわと上がり始めました。血液が流れるようになってきたような印象です。立春を過ぎたことで季節が変わり、経済の正常化に向けてマーケットでは期待値が急速に高まっているようです。

TOPIX-17業種のセクター別の騰落では、値上がりしたセクターが16業種に広がり、値下がりしたセクターは「食品」だけのわずか1業種にとどまりました。

その「食品」セクターも▲0.08%の小さな下げにとどまっています。

値上がりトップは「自動車・輸送機」です。先週から今週にかけてトヨタグループ各社の決算発表が行われ、デンソー(6902)、豊田自動織機(6201)を中心に今期業績見通しの上方修正が続いています。それに伴ってグループ各社の株価が大きく上昇しました。

それらに刺激されて、突き上げられるようにトヨタ自動車(7203)の株価も上昇しセクター指数の大幅な上昇につながりました。2月4日(木)の日本経済新聞によれば、トヨタ自動車の今年1~12月の世界生産は920万台(前年比+17%)に達し、過去最高を更新することになるとのことです。

トヨタがグループ各社に伝える社内計画の概要から判明した模様です。自動車業界では半導体不足が深刻になっており、生産計画の策定がむずかしくなっていると見られていましたが、トヨタに関しては半導体不足による減産はせず、影響も5000台程度にとどまる模様です。

自動車セクターの活況に刺激されて、値上がり業種の第2位には「鉄鋼・非鉄」が4週ぶりにプラスに浮上しました。

値上がり第3位には「運輸・物流」が3週ぶりの上昇で登場しています。日本でもワクチンの接種開始が期待されるような時間帯に入っていると見られ、コロナ後の経済正常化を先取りしてJR東日本(9020)、

(後略)

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