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2022年6月8日

月初の経済統計が目白押し、日経平均は4月高値を更新

鈴木一之

◎日経平均(3日大引):27,761.57(+347.69、+1.27%)
◎NYダウ(3日終値):32,899.70(▲348.58、▲1.04%)

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鈴木一之です。ウクライナではこれまでの膠着状態から一転、東部地区での攻防が一段と激化している模様です。ルガンスク州とドネツク州ではロシア軍による砲撃が絶え間なく続いており、民間人で多数の死亡者が出ているとウクライナ当局が伝えています。

ゼレンスキー大統領はロシアとの戦争が始まって以来、初めて首都のキーウを離れ東部のハリコフ州に兵士を激励に訪れました。ロシア軍によって黒海の要所・オデッサ港が封鎖されてており、黒海の港から小麦を中心にウクライナ産の穀物の輸出が滞っています。

これが世界的に大きな問題を投げかけています。アフリカや中東ではウクライナからの穀物に頼っている国も多く、このままではエネルギーや金属資源に続いて、深刻な食糧危機が発生する恐れが高まっています。緊急で食料を増産する必要性からか、日本でも肥料や農薬に関連する企業の株価が急騰しています。

プーチン大統領はドイツとフランス両首脳との電話会談で、西側諸国による経済封鎖を解除するのならウクライナからの食料供給に協力するとの交換条件を伝えたとされています。どうやら世界は限りある資源を奪い合う時代に突入した様子です。

被害を受けるのは低所得層ばかりとなっており、ウクライナ戦争の長期化は世界の庶民生活に想像していた以上の影響とダメージをもたらしています。

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6月に入り、月末月初の経済統計が一斉に発表されています。米国ではインフレ抑制のための金融引き締めを急いでおり、それが米国だけでなく世界経済を必要以上に押し下げてしまうのではないか、との懸念が5月相場のセンチメントを形作っていました。

それだけに今回のマクロ経済統計のデータには、市場参加者はことのほか敏感になっています。NYダウ工業株は歴史的な8週連続の下落を回避したばかりですが、それだけではとても楽観はできません。

そのマクロ経済統計を、先週の発表順に見てみます。

5月31日(火)に中国・国家統計局より2022年5月の中国・製造業PMIが明らかにされました。49.6(前月比+2.2)となり、分岐点の「50」の境界線を3かカ月連続で下回っています。

3月末からの上海ロックダウンが響いていると見られますが、4月よりは改善しています。同時に発表された非製造業PMIも同様に47.8(+5.9)もこちらも「50」割れですが、4月より改善しました。

5月31日(火)は日本の鉱工業生産指数(速報値)も発表されました。生産は95.2(前月比▲1.3)と3か月ぶりのマイナスです。電子部品・デバイス工業(▲6.6%)、生産用機械工業(▲2.7%)、自動車工業(▲0.6%)の低下が目立ち、やはり上海ロックダウンの影響が出ていると見られます。

反対に、電気・情報通信機械工業(+4.7%)、汎用・業務用機械工業(+3.5%)、化学工業(+4.3%)は上昇しています。この結果を受けて経済産業省は、経済の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」から「足踏みをしている」に引き下げました。

6月1日(水)には米国のサプライマネジメント協会がISM・製造業景況感指数を発表しました。こちらは56.1(前月比+0.7)と3か月ぶりに上昇しています。事前の市場予測である54.5も上回りました。発表元のISMは「需要に関して米国企業はきわめて楽観的である」としています。

米国の経済は依然として好調であることが確認されましたが、現時点ではインフレ抑制のための景気のスローダウンが望まれており、弱いデータほど歓迎されます。

6月3日(金)には同じくISMの非製造業景況感指数が発表され、55.9(▲1.2)となりました。こちらは2か月連続の低下で、2021年2月以来の低い水準となりました。市場予測(56.7)も下回っています。

6月1日(水)にはFRBより地区連銀報告(ベージュブック)が発表されました。全米12地区で景気は拡大しているものの、そのうち4つの地区では「緩やかな拡大」とトーンダウンしており、他の4つの地区は「拡大ペースが鈍化した」とされています。

物価上昇によって消費活動がやや弱まっており、住宅ローンの金利と住宅価格の上昇で住宅市場も減速感が見られます。ここにはFRBの引き締め効果が徐々に出ていると見られます。企業は労働力の不足と物流の混乱など、供給面での制約に直面しています。それが少しずつ景気後退に関する懸念として表れつつあります。

6月2日(木)には米労働省より失業保険統計が発表されました。5月最終週の週間の新規失業保険申請件数は20万件で、前週より▲1万1000件の減少となりました。失業保険の受給者数は130万件で、1969年12月以来、52年ぶりの低水準となっています。

4月の自発的離職者は442万人で、3月からは減っているものの水準は高いままで推移しています。労働市場の需給ギャップは大きく、賃金は下がりにくい状況が続いていると見られます。

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引き続きマーケットでは物価の上昇、インフレ動向にきわめて敏感な動きとなっています。原油価格は高止まりしWTI先物価格は週末に120ドル台に乗せました。2か月半ぶりの高値圏に進んでいます。

週初にEUがロシア産石油の禁輸で合意に至り、世界的な原油の供給不足への懸念が強まっています。OPECは「OPECプラス」の枠組みからロシアを除外する方向と言われますが、そのロシアが抜けた枠を残った加盟国の間でどう増産配分するのか、思惑が渦巻いています。

実際に増産合意に達しましたが、それまでの43万バレル/日から64万バレル/日と非常に小さな増産に過ぎず、原油価格はこの材料だけでは下落することもなく、週末にかけてさらに一段と上昇を遂げました。

6月2日(木)にOECDが発表した4月の加盟国・38か国の費者物価指数は前年比+9.2%の上昇でした。33年ぶりの高い伸びで、3月の+8.8%と比べてもさらに一段と上昇力が強まっています。FRBは今年3月FOMCでゼロ金利を解除し、続く5月の会合で22年ぶりとなる0.5%の大幅な利上げを行いました。6月からはバランスシートの圧縮も静かに始まっています。

パウエル議長は続く6月と7月の会合でも0.5%の利上げを示唆しています。その後の上げ幅を巡って市場では思惑が渦巻いています。FRBのウォラー理事は、講演の中で政策金利の引き上げに触れ、「物価の上昇率が2%の政策目標に近づくまで、0.5%の大幅な引き上げは選択肢から排除しない」と述べました。当面は利上げを急ぐ考えを強調したものと市場では受け止められています。

ブレイナード副議長もCNBCのインタビューに応じる形で、5月から7月まで連続3回にわたって0.5%の利上げを行った後も「次の9月の会合で利上げを停止をするのは非常にむずかしい」と述べました。物価と金融当局の動きに神経をとがらせる状況がしばらくは続きそうな雲行きです。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが3週連続で続伸しました。上昇力は次第に大きくなっており、先週は+2.43%の値上がりを記録しました。3月25日の週に+3.78%の上昇を記録して以来のことです。

規模別指数では、その前の週と同じく大型株、中型株、小型株が偏りなく上昇しました。中でも小型・グロース株の上昇がわずかに優勢だった点が特徴です。東証マザーズ指数は2週ぶりに反発しました。

テクニカル面では、日経平均のサイコロジカルラインは「6」の中立状態を保っています。過熱感はありません。騰落レシオは108.5%に上昇しており、こちらは徐々に強い動きを示す展開となっています。

東証REIT指数は3週連続で上昇しました。高利回り銘柄に特化した配当フォーカス100指数も3週連続の上昇です。

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TOPIX-17業種のセクター別の騰落では、値上がり業種が14業種に広がりました。値下がり業種は4業種ですが、これも前の週と同様にいずれも小幅安にとどまっています。

上昇率のトップは「機械」、第2位が「自動車・輸送機」、第3位が「電機・精密」となりました。いずれも日本を代表する製造業、輸出関連企業が集合するセクターです。

マクロ経済統計が景気動向の軟調さを示すデータが増えてきたのとは反対に、株式市場では景気敏感株の上昇が次第にトレンドとして強まってきたように見られます。中国・上海のロックダウンが6月から解除され、製造業PMIも底打ち反転し始めました。

自動車産業やエレクトロニクス産業の周辺企業に力強さが戻ってきたような展開が市場では始まっています。

中でも機械セクターは、オークマ(6103)、牧野フライス製作所(6135)を中心に、コマツ(6301)、住友重機(6302)、川崎重工(7012)、IHI(7013)、クボタ(6326)など主力銘柄がいずれも高値をうかがいながら、しっかりした展開が見られました。

自動車ではSUBARU(7270)が5月の世界全体の販売回復を好感して大きく上昇しており、トヨタ自動車(7203)から三菱自動車(7211)まで堅調です。

エレクトロニクスでも、アドバンテスト(6857)、ローム(6963)、ルネサスエレクトロニクス(6723)などの半導体関連株に始まって、村田製作所(6981)、TDK(6762)、太陽誘電(6976)、日東電工(6988)、アルプスアルパイン(6770)、KOA(6999)などの電子部品株が一斉に上値追いに向かっています。

これなら日経平均やTOPIXはもっと上昇してしかるべきですが、実際には業績相場の中で循環物色の色彩が強まっており、上場企業の全てが値上がりしているわけではありません。順番にぐるぐると回りながら買われているという印象が強まっています。株価指数は遅れてゆっくりと動き出しています。

景気敏感株では「素材・化学」の上昇も目立ちました。ここでも昭和電工(4004)、クレハ(4023)、JSR(4185)、

(後略)

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鈴木一之