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2023年4月14日

金融システム不安が遠のくと、今度は景気後退リスクが台頭

鈴木一之

鈴木一之です。プロ野球が開幕しました。WBCの熱気をそのまま持ち込んで、どの球場も満員御礼の状態です。街にも観光を楽しむ国内外の人々があふれかえっています。普通の暮らしに明るさが戻ってきました。

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そういった街角の全体的な景況感は、体感温度でいうとかなり高いと感じられるのですが、株式市場や債券市場を見わたすと、どういうわけか不況の雨風が強く吹き荒れているように見えます。そのあたりのミスマッチが先週のマーケットでは強く感じられました。

特に市場が注目しているのが米国の景況感です。人手不足が賃上げを呼び込み、それがサービス価格全般の上昇に転嫁されて、インフレを高進させています。景気が弱まればよいのでFRBは金利を引き上げているのですが、なかなか効果を発揮しません。

景気は依然として強いことを示す状況が続いていましたが、それが先週明らかにされた経済統計はそのほとんどで景気の鈍化を示すものとなりました。そして株式市場では、望んでいたはずの「景気の鈍化」を恐れるようになり、景気敏感株から軟調に推移する場面が見られるようになったのです。

まずはマクロ経済データから見てゆきます。

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最初は月初恒例のISM・景況感指数です。4月3日(月)に3月の製造業・景況感指数が明らかになり、46.3(前月比▲1.4)となりました。分岐点とされる「50」の大台を5か月連続で下回りました。

特に弱かったのが新規受注です。44.3(▲2.7)となり、ここまで低下すると過去の事例ではほぼ確実に景気後退に突入するとされるほどの水準となりました。

2日後の4月5日(水)には3月のISM・非製造業景況感指数が発表されました。こちらも51.2(▲3.9)と3か月ぶりの低下を示しています。分岐点の「50」は上回っていますが市場予想の54.3は下回っており、新規受注も52.2(▲10.4)と大きく低下しています。シリコンバレーバンクの破綻が影響している可能性があります。

銀行セクターになにか混乱が生じると、銀行の与信態度が引き締め気味となり、人々も消費のために貯蓄を取り崩すことを慎重に行うようになるため、景況感はとたんに悪化する傾向がエコノミストから指摘されています。

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このほかにも注目すべきデータがいくつか明らかになりました。4月4日(火)には2月の「JOLTS」(雇用動態調査)が発表されました。このところ急速に注目度が高まっているマクロデータです。

それによれば、2月の非農業部門の求人件数は993.1万件となり、前月比▲63.2万件の減少で2か月連続のマイナスとわかりました。

900万件台に低下するのは2021年5月以来のことで、2022年3月のピーク(1203万件)から一貫して減少していることが示されています。ビジネスサービス、医療・福祉サービス、物流で減少が目立っており、米国の労働市場は落ち着き、労働需給のひっ迫は解消しつつあることが確認できます。

そして週末の4月7日(金)、復活祭を迎えて米国のマーケットは休場でしたが、注目の雇用統計が発表されました。

非農業雇用者数の伸びは前月比+23.6万人、2か月連続での減少となりました。市場の予想通りの結果です。失業率は3.5%(2月は3.6%)、平均時給の伸びは前月比+0.3%、前年比+4.2%でした。

労働市場のひっ迫はここでも弱まっていることが見てとれますが、しかし金融当局としては「まだ強すぎるレベル」にあると見ているようです。

先週は「経済にとって悪いニュースは、マーケットにとってよいニュース」という、それまでのような楽観的な見方は急速に後退しました。経済にとって悪いニュースは、そのままマーケットにとっても悪いニュースと評価されつつあります。1か月後のFOMC(5月2、3日)でどのような判断が下されるか、市場は今回もやきもきすることになりそうです。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが反落しました。下落率は▲1.90%と少し大きめの下げとなりましたが、前の週の上昇率+2.46%と比較すればまだ小さい方です。

規模別では大型・中型・小型株すべての指数が下落しました。金利低下が進む割に小型株の下げが目立っています。大型株の下げは小型株ほど大きくはありません。東証マザーズ指数は3週連続で下落しました。

スタイル別ではバリュー株、グロース株そろって値下がりしています。中でも小型グロース株の下げが特に大きくなっています。金融システム不安は後退していますが完全に消えたわけではありません。そこに景気後退懸念が重なって小型成長株の下げにつながっている模様です。

日経平均採用銘柄のうち、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている銘柄数は112銘柄です。採用銘柄(225銘柄)全体の50%を占めています。前の週に比べて▲2銘柄減少しました。

テクニカル面では、騰落レシオが週末に103.72%まで低下しました。4月3日に122.82%まで達した後、徐々に低下しています。日経平均のサイコロジカルラインは4月4日に「8」まで上昇して、週末は「7」の状態を3日間続けています。日経平均ボラティリティ指数はわずかに上昇しました。

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TOPIX-17業種のセクター別騰落では、2業種が値上がりし、15業種が値下がりしました。値上がりした2業種は「銀行」と「運輸・物流」です。

「銀行」は3月初旬からのシリコンバレーバンクの経営破綻をきっかけに大きく下落していました。その売り基調がほぼ一巡したと見られ、市場全体が弱い動きを示してもあらためて下落することは少なくなっています。期末の配当金を落として堅調さを保ちました。

「運輸・物流」では電鉄株の堅調さが目立っています。JR東日本(9020)、JR西日本(9021)をはじめとして、インバウンド消費の恩恵を受ける鉄道セクターがしっかりしています。ディフェンシブ的な銘柄としても資金の逃避先となりつつあるようです。

インバウンド消費に関しては、オリエンタルランド(4661)とその筆頭株主の京成電鉄(9009)が週を通じて堅調でした。エイチツーオーリテイリング(8242)、Jフロントリテイリング(3086)の百貨店株も強い動きです。

一方、値下がりセクターの上位には「機械」、「鉄鋼・非鉄」、「電機・精密」など景気動向に敏感なセクターが並びました。

機械セクターではオークマ(6103)、DMG森精機(6141)、ダイキン工業(6367)、コマツ(6301)など主力銘柄が一斉に大きく下落しました。設備投資は強い基調が続いていますが、海外では一部延期の動きが出ていると、いくつかの企業が決算資料に記載しています。

同じくエレクトロニクスでも、ファナック(6954)、キーエンス(6861)、

(後略)

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鈴木一之