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2023年3月19日

シリコンバレーバンク破綻で日経平均も急落、銀行株が下落

鈴木一之

鈴木一之です。東京では3月15日に桜の花が開花しました。観測史上の最速です。

最速と言えば、日本中が湧いているWBC(ワールドベースボール・クラシック)で大谷翔平投手と佐々木朗希投手が時速164キロの剛速球を披露しました。日本は準決勝まで勝ち進み、3月21日(日本時間)はいよいよ強敵・メキシコ戦です。

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そのWBCの1次リーグ4試合で日本中が沸騰している時、地球の反対側では想像もしなかった金融危機が発生していました。

米国西海岸を本拠地とするシリコンバレーバンク(SVB)で取り付け騒ぎが起こり、一夜にして経営が破綻したのです。

SVBの総資産は2000億ドル(28兆円)、全米第16位の地方銀行(リージョナルバンク)です。その銀行からほぼ一日で5兆円が引き出され、たちまち業務停止となりました。2008年9月のワシントン・ミューチュアルに次ぐ全米2番目の大きさの銀行破綻です。

きっかけはSVBによる保有債券の売却と増資の発表です。FRBによる急ピッチな利上げで含み損を抱えた債券の売却、それを埋め合わせるための増資は、それだけでは何でもないことです。しかし預金の引き出しを勧めるSNSが拡散したことで、ネット経由で預金が次々と引き出される取り付け騒ぎが発生しました。

預金引き出しと言っても、銀行の店舗に行列ができたわけではありません。失業者が街にあふれかえるわけでもなく、反対に「シリコンバレーバンク」の名が示すように、全米で最も地価の高い、豊かで高度人材の集まる西海岸を地盤とした有数の地銀です。この一件が全米規模の金融危機につながりかねない騒動の震源地となりました。

SVB問題の最大の特色は、コロナ禍の3年間で預金が集まり過ぎたという点にあります。2022年3月末の預金残高は1980億ドルに達し、わずか3年間で3.8倍に急拡大しました。

コロナ禍での急激な金融緩和によって西海岸のベンチャー企業に資金が流れ込み、それが預金を通じてSVBに集中的に流れ込みました。銀行はその資金を償還期限の長い国債やMBS(住宅ローン担保証券)で運用していたことから、「短期調達、長期運用」の弊害で急ピッチな利上げによって含み損が膨らんだことが原因となっています。

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ここには現代の金融セクター固有の要素が詰め込まれています。コロナ発生→100年ぶりのパンデミック→弱者寄りの民主党政権誕生→救済のための財政出動→カネ余り、物資不足→インフレ→金融引き締め→債券価格の下落→SNSによる拡散→取り付け騒ぎ、銀行破綻。

FRBと財務省は週末にSVBの25万ドルまでの預金は全額保護されると発表しましたが、しかしSVBは大口の預金者が多く、これが預金引き出しを加速させた側面もあります。預金保護の対象にならない大口預金が残高のうちの9割を占めるという構造になっていました。

きわめて特殊なケースであるため、金融当局は今回の銀行破綻が連鎖的に広がるとは見ていなかったようです。しかし金融市場はそうは受け止めず、SVBだけにとどまるのかという疑心暗鬼が生じ、3月8日にはシルバーゲート・キャピタルの傘下の銀行が自主清算することとなりました。

週明けの3月13日(月)、米国の地銀の株価が軒並み急落し▲30-60%値下がりするところが見られました。その流れは週を通じて続き、ファースト・リパブリック・バンクは17日(金)も▲33%、ウエスタン・アライアンス・バンコープも▲15%の値下がりしました。

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悪い時には悪いことが重なります。3月16日(木)に欧州のクレディ・スイスが金融当局に対して資金支援を要請しました。スイス国立銀行はすかさず、最大で500億スイスフラン(7兆円)の資金支援を発表。クレディ・スイスの手元資金を厚くして市場の動揺を最小限に抑える方法を選択しました。

2008年秋のリーマン・ショックと、その直後の2011年に発覚したギリシャ危機、それに続く2012~2015年の数次に及ぶ欧州債務危機によって、欧州のいくつかの大手金融機関は経営が厳しいとの評価が下されています。そのひとつがクレディ・スイスです。

今回のSVBの経営破綻とクレディ・スイスとでは問題の在り方が異なりますが、金融市場ではすでに動揺が広がっています。そこを食い止めるため主要国の金融当局は迅速に行動しています。

週末には株価が急落していた米国のファースト・リパブリック・バンクに対して、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなど、そうそうたる大手銀行が共同で資金を拠出して300億ドル(4兆円)の預金を預けました。

かつて日本の銀行行政でしばしば見られた「奉加帳方式」、「護送船団方式」を彷彿させる行動です。1998年にヘッジファンド、LTCM(ロングターム・キャピタルマネジメント)が経営危機に直面した時、グリンスパン議長によって緊急動員された方法でもあります。1929年の「暗黒の木曜日」でも同様の方法が見られました。

今回もFRBと財務省が迅速に動いているのでしょう、預金の流出を抑えファースト・リパブリックの資金繰りを支える信用補完の側面が強く打ち出され、このタイミングで再現されました。

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そのような状況で今週、3月21-22日にFOMCが開催されます。果たしてFRBは利上げを実施するのか、できるのか。ターミナルレートの引き上げはあるのか。記者会見でパウエル議長はどのような見解を述べるのか。世界中が固唾を飲んで週明けの動きを見つめています。

取り付け騒ぎが広がり、苦境に陥る金融機関が相次ぐ状況で、世界は再びかつてのような金融危機の様相を帯びているのは事実です。では今の状況が本当に金融危機なのかと問われれば、私はそうではないと考えます。

その理由のひとつが「金利は低下している」という事実です。本当の金融危機であれば金利は急上昇します。欧州債務危機の時、ギリシャ、イタリア、スペインの金利は垂直のカーブを描いて上昇しました。いまはまだ金利の上昇は見られず、反対に景気の鈍化を反映して金利は下がっています。

楽観視できる状況ではありませんが、危機の度合いとしては、真ん中よりもわずかに低いくらいの中規模の危機、というのが率直な感覚です。

米国が経済的な苦境に陥った場合、誰よりも喜ぶのがロシアと中国です。今週はさっそく中ロ首脳会談が開催される運びとなりました。FRBとECBは何を置いても金融危機の広がりを防ぐ行動に出るはずです。

金融当局のアクションの素早さに驚くと同時に、世界はギリギリの際どい瀬戸際のところを歩んでいることが痛感されます。臆病なマネーが防衛的になるのも無理のないところです。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが3週ぶりに反落しました。下落率は▲3.55%に達しています。

大型株も小型株もそろって大きく下落しました。割合としては、それまで堅調だったバリュー株の方がグロース株よりも大きく下げています。東証マザーズ指数は小幅ながらプラスを維持しています。

テクニカル面では過熱ぎみだった騰落レシオが低下しつつあります。木曜日に107.04%まで低下した後、週末は110.52%で終わりました。日経平均のサイコロジカルラインは「7」から「8」のところで推移しています。日経平均ボラティリティ指数は大きく続伸しました。

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TOPIX-17業種のセクター別の騰落では、値上がりセクターは「医薬品」の1業種にとどまりました。値下がりセクターは16業種に広がっています。

値下がり率の大きかったのは「銀行」、「金融(除く銀行)」です。特に銀行セクターは世界中で売りの対象となったため、三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)、

(後略)

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鈴木一之