ブログ

2023年3月27日

金融システム不安は去らず、銀行セクターが下落、半導体株が上昇

鈴木一之

鈴木一之です。史上最速の桜の開花から10日経ち、東京ではほぼ満開の時期を迎えました。気温が30度を超える日もありましたが真冬の寒さも残っています。今日は雨、お花見は来週に持ち越されそうです。

@@@@@

米国、シリコンバレーバンク(SVB)の取り付け騒ぎに端を発した金融システム不安はいまだ解消しておりません。SVBやシグネチャーバンクという、ごく一部の米国の問題銀行だけの問題にとどまらず、事態は日を追って少しずつ深刻さを増している様子です。

1週間前の日曜日、3月19日にかねて問題を抱えていた欧州の巨大銀行、クレディ・スイスがUBSによって買収されました。救済買収の色彩が強い案件でしたが、資産規模1兆円とされるクレディ・スイスの買収額は当初1000億円とされ、最終的には4200億円で決着しました。

しかし事態はこれにて一件落着、とはなりませんでした。問題となったのが「AT1債」です。スイスの金融当局は、クレディ・スイスの発行したAT1債(劣後債の一種)の価値をゼロとする判断を下しました。これによってそれまで平静だった社債市場は大きく混乱し始めました。

一般に、企業破綻の際の債券の弁済順位は株式よりも優先されます。破綻先の債権者は株主よりも先に破綻企業からの残存価値の返済を受けることができます。それが今回のクレディ・スイスの事案では、株主の方がAT1債の保有者よりも弁済が優先されることとなりました。

これはAT1債が発行された時の目論見書に、発行体の存続が揺らいだ事態が起きた時に政府が支援するに至った場合には、AT1債は無価値になる規定が盛り込まれていたためです。スイス金融当局はこの規定に基づいてAT1債の価値を早々にゼロと決定したのですが、これが世界中に波紋を投げかけました。

週末の3月24日(金)、欧州の株式市場で銀行株が軒並み下落しています。ドイツ銀行は1日で▲15%、フランスのソシエテ・ジェネラルは▲9%安、英国のバークレイズも▲6%安となりました。週明けはこの状態で東京市場に引き継がることになります。

@@@@@

欧州の銀行株下落の理由はいくつか指摘されています。

(1)米国の司法省がロシアの新興財閥(オリガルヒ)に対する制裁逃れを支援したとの疑惑で、UBSとクレディ・スイスを調査していることが伝えられた点。

(2)クレディ・スイス買収に際して十分な資産査定を行わなかったことから、UBSの財務が毀損するとの見方が浮上している点。

(3)無価値とされたクレディ・スイスのAT1債の保有者が集団訴訟を起こす可能性がある点。

特に(3)に関しては、クレディ・スイス以外の発行体のAT1債をどの金融機関がどれだけ保有しているか、まるでわかっていない点が不安心理を増幅させています。リーマン・ショックに至ったサブプライムローン問題の時と似たような図式です。

ECBはAT1債の弁済に関して「損失の吸収はまず株式が優先」として、スイス金融当局とは反対の立場を表明しており、金融システム不安は収束に向かうどころか拡大しているととらえられても不思議ではありません。

@@@@@

先週のマーケットの話題はもうひとつ、米国の金融政策です。3月22日(水)に今年2回目のFOMCが開催されました。そこでFRBはFFレートの0.25%利上げを決定しました。

ほぼ予想通りの結果だったと言えますが、その予想自体が、利上げ幅は0.25%になるのか、それとも利上げそのものが見送られるのか、というふたつに大きく分かれていたように思います。

今では「FedWatch Tool」という便利なツールがあるので、FOMC前に市場の予想がどこに集中しているのか手軽に入手できます。そこでは0.25%の利上げ予想に大きく傾いていました。

しかし目下の金融市場の不安定な情勢を鑑みて、FRBは利上げを見送るかもしれないという見方も完全には捨てきれない状況にあったのも事実です。予想通りと言えばそれまでですが、その中でFRBは利上げを断行してきました。

SVB破綻の発端となった3月8日以降、奇しくもその日はパウエル議長が議会で利上げ加速を証言した日でもあります。その日から突如として、世界の金融市場は金融システム不安に直面することとなりました。あれから3週間、まだ事態は沈静化したとは言えません。

@@@@@

米国では先週、イエレン財務長官の発言が連日のようにマーケットを揺さぶりました。イエレン財務長官は今回のFOMC直前の講演で「金融機関が預金流出に見舞われた時には、同じ措置(預金の全額保護)を採ることが正当化される」と述べ、金融システム不安の解消につとめました。

ただしイエレン長官は、それによって安易な銀行のモラルハザードにつながることがないよう、現行25万ドル(3000万円強)の預金保護の上限を引き上げる可能性のないこと、銀行預金の包括的な保険は設けないことにも言及しました。

マーケットはイエレン財務長官の最初の発言で、シリコンバレーバンクを除けば債券の含み損で経営破綻に追い込まれる金融機関はない、と楽観的に(一方的に)判断していたようなところがあります。

それに対してイエレン財務長官は、モラルハザードの観点から預金保護の上限引き上げを否定して、安易な見方をいましめる方向に誘導したとも見られます。あくまで個々の銀行の直面している問題に即して判断を行う、というスタンスにとどめました。

その上でイエレン財務長官は3月23日の下院での議会証言で、銀行の預金保護に関して「預金の安全は確保されている」、「必要となればさらなる措置を講じる」と強調しました。モラルハザードに陥りかねない市場の楽観的な見方を否定したのちに、あらためて金融市場の保護と安定について、より踏み込んだ発言を行いました。

FRBと財務省が担っている米国の金融政策と銀行行政は、ここにきて二転三転しているようにも見えます。それでも景気の失速を食い止めつつ、金融緩和を続けながら銀行には安易な融資の道を取らせずに、その上でインフレ抑制の金融引き締めの道を探るのは極めて困難な作業です。

米国と世界が直面しているのはまさにそのような現実です。金融システム不安は解消しておらずあちこちに火種がくすぶっています。先週の時点ではこの件はまだ完全には収束しておりません。今はまだ途中経過であり、この先の続きがまだありそうな気配です。

@@@@@

先週の東京株式市場は、TOPIXが続落となりました。下落率は▲0.21%と小さいものにとどまっていますが、1月第1週に年をまたいで4週間の続落を記録して以来のことです。

規模別では大型株、小型株ともに下落していますが、小型株に下げが目立ちました。東証マザーズ指数は▲1.03%と大きめの下げを余儀なくされています。銀行セクターを中心にバリュー株の下げが目立っており、大型のグロース株は堅調でした。

テクニカル面では、騰落レシオが3月20日に103.30%まで低下した後、週末は112.60%で終わりました。株式市場では全面高と全面安を繰り返すことが多くなっており、トレンドが発生しにくいこともあって騰落レシオは極端な変化が生じにくくなっています。日経平均のサイコロジカルラインは「5」まで低下しました。2月末以来のことです。

日経平均ボラティリティ指数は3週ぶりに低下しました。

@@@@@

TOPIX-17業種のセクター別の騰落では、値上がりセクターは7業種、値下がりセクターは10業種となりました。

値上がりセクターの上位は「エネルギー資源」、「機械」、「素材・化学」の景気敏感株に占められています。

エネルギー資源は前の週に原油市況が急落した影響で、資源株が軒並み下落しましたが、先週はその反動による上昇が見られました。

それ以外の上昇セクターは、ほとんどが半導体関連株の値上がりで占められています。「機械」ではディスコ(6146)、荏原(6361)、ローツェ(6323)、タツモ(6266)、TOWA(6315)など半導体の設備投資に関連する銘柄の上昇が目立っていました。

化学セクターでも、信越化学工業(4063)、

(後略)

日本株に関する情報をいち早くゲット!

ここでしか読めないメールマガジンを配信しています。
登録無料!

鈴木一之