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2022年10月30日

米国で金利引き上げペースの鈍化期待が浮上、NYダウ工業株は6日続伸

鈴木一之

鈴木一之です。毎週のように週の初めから大きな変化があります。先週からいよいよマーケットはその性格が大きく変わりつつあるように感じられます。

きっかけは10月21日のウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載されたFRBの金融政策に関する記事でした。そこには「次の11月FOMCにおいて、12月以降の政策金利の引き上げ幅の縮小を検討する」と報じていました。

これだけのことですがいつもと異なるのは、11月FOMCを目前にしてFRB高官がコメントできなくなる「ブラックアウト」の期間に入る直前だったという点です。そういう時にFRBがよく使う手が、WSJ紙に内部からのリークのような形で記事を掲載する方法です。

この方法には、政策の一部を小出しにして世間の反応をうかがうアドバルーンの時もあれば、ほとんど確信に満ちた政策決定の明示という時もあります。今回はおそらく後者ではないかと見られています。

この記事に対して、米国の金融市場はすかさず大きく反応を示しました。株式市場は上昇に転じ、債券市場では長期金利の低下が顕著となっています。

ジャクソンホール会合でパウエル議長が力強く宣言したように、現在のFRBは「やり遂げるまでやり続ける」覚悟で政策金利を引き上げています。しかしマクロ経済統計のデータを見る限り、インフレは一向に収まってはいません。

最近では米国の住宅着工や販売件数に陰りが見え始めましたが、まだ明確に景気の鈍化や労働需給のひっ迫緩和、物価の沈静化を示す数値を手に入れたわけではないのです。それでもどうやらFRBは「政策金利の引き上げ幅を抑える」という方向に向かい始めるようです。

それからほぼ1週間が経過して、結果としてNYダウ工業株は今週末まで6日間の続伸を記録しました。連騰記録としては5月末と並んで今年の最長タイ記録となりました。

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先週のポイントはもうひとつ、注目のテック・ジャイアント「GAFAM」の決算発表がありました。

アルファベット(グーグル)、アップル、メタ・プラットフォームズ、アマゾン、マイクロソフトのすべてが一斉に決算発表を行うという、緊迫度の高い週でした。結果はご存じのように、アップルを除いていずれもがかなり苦戦した決算となりました。

そしてその割に、マーケット全体としては平静を保っています。警戒された決算の悪化が株価下落につながっておりません。それはなぜか。理由のひとつが、1週間前のWSJ紙の観測記事の影響だったように思います。

「GAFAM」の決算は、発表前からネット広告のプライバシー保護規制の強化、ドル高、世界経済の減速がネックとなって苦戦が予想されていました。そして実際に発表されてみると、どの企業も7-9月期の売上げの伸び率が鈍化して、純利益もアップルを除いた4社が減益でした。

株価はアフターマーケットで早くも大幅に下落するというケースが相次ぎました。5社の時価総額の合計が1週間で4300億ドル(63兆円)も減少するなど、マーケットでのインパクトはかなり大きかったはずですが、それでもNYダウ工業株やNASDAQ総合などの株価指数への影響はきわめて限定されていました。

株式市場を支えたのはキャタピラー、コカ・コーラ、ウォルマート、ディズニー、マクドナルドなど、テクノロジーではないダウ構成銘柄です。インテルも堅調でした。

テクノロジーの巨人たちはコロナ禍の昨年、利益水準がきわめて高い状態にありました。コロナ禍でデジタル化の流れが加速しており、アマゾンやグーグルの収益をこれまでにないまでに押し上げるという状況でした。その反動が出ていると見られます。言ってみれば、現在が平時の状態です。

反対にコカ・コーラやウォルマートの収益はこの2年間、コロナ禍によってかなり押し下げられていました。それが1年経って経済活動が正常化に向かい、収益が元の水準近くに戻るにつれて、株式市場での評価があらためて高まっているようです。

リスクマネーの置き場がテクノロジーの巨人から、平時の巨人たちに移り始めたという状況のようです。投資資金の浮き沈みは世の常ですが、現在は浮き上がる順番が旧来型の優良企業に巡ってきているものと考えられます。

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そして米国市場が堅調さを取り戻すにつれて、日本の株式マーケットの動きも従来のように米国市場に連動して動くようになりました。これまでは米国市場がいくら上昇しても、東京市場は蚊帳の外に置かれていることが多かったように思います。

さらにグロース株も急速に息を吹き返しています。長期金利がわずかながらも低下する方向に向かい出し、バリュー株からグロース株に資金が戻りつつあります。日本で言えば、かつての東証マザーズ市場に上場していた小型成長株が一斉に上昇しています。

これらの銘柄は金利の上昇に最も弱いため、2020年秋、あるいは2021年秋に株価のピークを形成して、そこから一貫して下落してきました。それが先週は週を通じて急反発するようになりました。同じような動きは今年だけで2回ありましたが、年末相場を前にして3回目の小型成長株相場が始まったように感じられます。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが3週ぶりに反発しました。週間の上昇率は+0.91%と小さいものにとどまっていますが、それ以前の週が▲0.85%、▲0.45%といずれも小幅安だったことから反発も小さくなりました。

物色動向はまず大型株に向かっていますが、小型株もしっかりです。下げ渋っていたグロース株が急浮上し、その分だけバリュー株の上昇力が見劣りする結果となりました。いち早く反発した東証マザーズ指数は続伸しています。

テクニカル面では、低下していた騰落レシオは再び上昇に向かい、80.39%から90.98%に上昇しました。日経平均のサイコロジカルラインはサイコロ「6」のニュートラルの状態を続けています。

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TOPIX-17業種のセクター別騰落では、値上がりセクターは11業種、それに対して値下がりセクターは6業種にとどまりました。

値上がりセクターの第1位は「医薬品」です。アルツハイマー病治療薬のエーザイ(4523)と抗がん剤の第一三共(4568)を軸として、協和キリン(4151)までしっかりした動きを続けています。

値上がりセクターの第2位は「自動車・輸送機」でした。久しぶりに上昇セクターの上位に顔を出しています。日銀の介入もあった模様で151円まで下落した円安は、先週は一服しています。

それでも決算発表を行った企業では円安のメリットがやはり顕著に生じており、豊田自動織機(6201)、日野自動車(7205)、NOK(7240)、ヤマハ発動機(7272)などがいずれも堅調でした。

トヨタ自動車(7203)も年間の生産台数の計画を引き下げるとの報道がありましたが、株価にはさほど悪影響は出ず、反対に株価はしっかりしていた点も大きいと見られます。

値上がり第3位は「機械」でした。世界経済の動向が気になり、オークマ(6103)、ダイフク(6383)などが下落しました。

その一方で決算発表を終えた、あるいは見通しを引き上げた銘柄には好調なものが目立ちます。ディスコ(6146)、竹内製作所(6432)、オルガノ(6368)、日立建機(6305)などがそれです。

設備投資が活発で受注が高水準に推移していることと、そこに円安メリットが重なっている点が好調の要因です。

一方で値下がりセクターのトップは「運輸・物流」でした。ここまで堅調な株価を維持していた電鉄セクターが、先週は総じて一服となりました。JR東日本(9020)、JR九州(9142)をはじめ、高値圏にあった銘柄がいずれも下落しています。

金利引き上げに一服感が出てくると、これまでの物色動向に変化が生じるという典型的な例のようにとらえられています。それでも日本航空(9201)も含めて、株価の大崩れは見られません。

値下がりセクターの第2位は「銀行」でした。これもりそなHD(8308)、ふくおかFG(8354)など地銀株を中心に、金利上昇が続くとの見方から株価の上昇基調が続いていましたが、それが反対に下落する局面を迎えています。

値下がりセクター第3位の「小売」も同様です。高級品の売上げが好調な百貨店セクターを軸として、セブン&アイHD(3382)、ビックカメラ(3048)などが上げ一服となりました。

反対に、円安がデメリットとなるニトリHD(9843)や良品計画(7453)は、その円安が米国の利上げ政策のペースダウンで一服感が生じていることから、株価は反対に底入れ感を強めながら上昇に転じています。

要するに、金利と為替の流れが急速に反転しており、それに伴って株式市場の物色動向も前の週までとはがらりと入れ替わるという展開でした。毎週のように波乱の続いた10月相場の最終週にふさわしい展開のように思います。

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日本でも決算発表が本格的にスタートしています。第1週目で早くも300社を超える発表があり、

(後略)

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鈴木一之