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2023年6月12日

高値圏で波乱の週、日経平均は32,000円台を維持する

鈴木一之

鈴木一之です。今週はカナダが2度、世界を驚かせました。ひとつは山火事、もうひとつは突然の利上げです。

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カナダ東部のケベック州で発生した山火事は例年以上に燃え広がり、発生した煙が米国にも流れ込んでいます。ニューヨークの摩天楼が昼間でも薄暗く、赤いスモッグで覆われている様子が世界中に放映されました。

6月6日(水)に米国の環境保護局は、ニューヨーク市の空気の質が主要都市では世界最悪の水準となったと発表しました。大気の悪化は1960年代のレベルだそうです。

1960年と言えば筆者が生まれた年代ですが、その頃はこのレベルで日常生活が営まれていたことにも驚きます。

今年は北半球ですでに異常気象が猛威を奮っています。5月には早くもイタリア北部やドイツ、フランスで大雨による洪水が発生しました。日本でも6月第1週に台風2号による大雨の被害がもたらされました。

カナダでは毎年この時期に空気が乾燥して雷が発生し、それによって山火事が起こります。今年の規模はケタ外れに大きいようですが、欧州では雨降りばかりでなく干ばつも深刻です。フランスのブドウ農家はダメージを早くも心配しているそうです。

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もうひとつの驚きは、カナダの利上げです。カナダ銀行は6月7日(水)に0.25%の利上げを実施しました。3月に世界に先駆けて利上げを停止していましたが、インフレの芽が見えてきたとたんに、市場予想の「金利すえ置き」に対して今回もいち早く利上げに踏み切りました。

週初に行われたオーストラリア中央銀行に続いて、2例目の予想外の利上げです。経済が底堅く、労働需給のひっ迫が続いており、サービス価格を中心に物価が高止まりしていることがその理由です。

今週は米国で5月消費者物価指数の発表、そしてFOMCが開催されます。大方の予想は「金利すえ置き」ですが、FRBの中でも意見は分かれているようなので予断は許されません。

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株式市場を見回すと、今週のマーケットは大幅高、大幅安の連続で気の休まる時がありませんでした。日経平均は月曜日+693円、火曜日+289円と大幅高を繰り返し、あっという間に32,000円の大台を突破しました。

前週末の米国市場で債務上限法案があっさりと下院、および上院で可決されたこと、そして5月の雇用統計で予想を上回る雇用の伸びが確認されたこと、一方で平均時給の伸びが限られた範囲だったことが株式市場を大きく上昇させました。

S&P500は直近ボトム(2022年10月、3577ポイント)からの上昇率が+20%を上回ったため、これで新たな強気相場に入ったことが確認されました。テクノロジー株がその中心です。

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東京市場でも日経平均が3万円に達したあたりから、利益確定の売りも増えるようになってきましたが、週初の段階では強い反発力を示し、買い勢力の強さが強調されました。

しかしそれが水曜日には▲593円と突如として急落し、さらに木曜日には▲272円と下げ幅を広げる展開となりました。SQ週でもあり株式需給は普段よりも荒っぽくなるのですが、それにしても水曜日の大幅安にはかなりの意外感もありました。

当初は大きな理由もないままに株価だけがするすると下げ始めましたが、ウクライナ南部の巨大ダムの決壊によって、下流の流域で大規模な洪水が発生していること。住居はもちろん、農地が広範囲に水没して穀物生産が長期的にもむずかしくなること、などが心配されるようになりました。

カナダ中央銀行の突然の利上げも、市場にあらためてインフレに対する警戒心を呼び起こす結果となりました。

株式市場は大きく上昇してきた直後だけに、多少の調整が入っても不思議ではないのですが、このところの連騰、株価の快進撃にどこか安心感が広まっていたようです。コロナ禍は広がりを見せており、世界情勢は依然として厳しいままです。楽観は許されない状況が思い出されました。

高値警戒感も強いため、わずかな値幅調整に過ぎない下げにも過敏に反応してしまいます。世界のどこかで自分だけが知らないことが起きているかもしれない、と必要以上に神経質になっているようにも見られます。SNS全盛時代の相場のむずかしさが感じられます。

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そして金曜日には+624円と再び大きく上昇しました。SQに伴う需給の乱れがひとまずクリアになり、マーケットには通常の感覚が戻ってきました。そうなればすぐに騰勢が強まります。

6月8日(木)、米国では新規失業保険申請件数が2021年10月以来の高い水準となり、労働需給が緩和していることが示されました。来週のFOMCと米国の利上げ長期化への懸念が薄らいで、それが東京市場でも株式市場の上昇につながりました。

FOMCでは金融政策の内容とともに、ドットチャ-トの形状で示される2023年末の金利水準の見通しが重要になります。そこでの中央値が3か月前の見通し(5.125%)より高ければ、7月以降もまだ利上げが続くことになると考えられます。その前哨戦として現在は弱い経済指標を待ち望んでいることになります。

日本と米国の株価の動きは連動しなくなった、と指摘されることが多いのですが、やはり経済の大きなトレンドは米国の行方次第です。そこを無視して動くことはむずかしいでしょう。

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現在の買いの主体は、誰が見ても海外投資家です。東証の投資部門別売買動向によれば、海外投資家はこれで10週連続で買い越しを記録しました。合計の買い越し額は4兆5000億円を越えており、統計のある2014年以降では最大となっています。

海外投資家の買い越しも重要ですが、それと同じくらいに重要なのが「銀行」と「信託銀行」という金融機関が10週連続で売り越している点です。買い越しを続ける海外勢のスタンスとちょうど裏返しの関係に当たります。

同じように「生損保」や「投資信託」も、連続の売り越しではありませんが、さほど強い買いスタンスを示してはおりません。国内勢の売りに対して海外勢がもっぱら買いに回っています。

これは株式市場だけでなく、ごく日常的にも見られる光景です。日本を訪れる海外からの旅行客の人たちは、誰もが大きなリュックを担ぎ、その上で1つか2つ、おそろしく大きなスーツケースを持って歩いています。

想像するに、円安で安くなった日用品やブランド品を山ほど詰めて自国に持ち帰るのでしょう。コロナ前の「爆買い」という言葉は中国からの観光客の人たちに向けられましたが、今は中国以外の海外の人たちが日本を訪れて爆買いしています。

日本人が日本にいると、円安の恩恵はさほど感じられません。反対に輸入物価が上がって苦しいことが多いように感じてしまいますが、海外から見れば「安いニッポン」では同じものが2~3割安く買えて丸儲けなのでしょう。

一家総出で歩く外国の人を見るたびにそう思います。日本の株式市場も同じような状況にあるのでしょうね。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが続伸しました。上昇率は+1.91%で、前週の+1.72%に続いてしっかりした展開です。週半ばに急落しましたが、その下げ分は週末の大幅上昇で早くも取り戻しました。

規模別の騰落は引き続き物色は大型株に向かっています。週間の騰落率では大型株が+2.13%の上昇を記録したのに対して、小型株は+1.32%にとどまっています。引き続き機関投資家と見られる買いが大型株に集中している展開です。

東証マザーズ指数も反発力が戻ってきました。前の週に+4.43%と大きく上昇して、先週も+1.97%と続伸しました。2週続けて上昇したのは3月中旬以来のことです。

スタイル別では、再びバリュー株が優位となりました。大型バリュー株が+2.73%の上昇、それに対して小型グロース株は+0.91%の上昇にとどまっています。配当フォーカス100指数は9週連続での上昇となっています。

日経平均採用銘柄のうち、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る銘柄数は97銘柄で前週比変わらずでした。採用銘柄(225銘柄)の43%を占めています。上がって下がって、また上がってと目まぐるしい1週間でしたが、着地点は前週とほぼ変わらずでした。

テクニカル面では、騰落レシオが6月8日に100%を割り込んだ後、週末は103.41%で終わりました。日経平均のサイコロジカルラインは「8」の状態を3日間続けるまで低下した後に、週末は「9」に上昇しました。

日経平均ボラティリティ指数は1週間で+7.63%上昇し、週末は21.59まで高まりました。

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TOPIX-17業種のセクター別騰落は、17業種すべてが値上がりしました。値上がり上位のセクターは「商社・卸売」、「電力・ガス」、「エネルギー資源」で、いずれも市況上昇、価格動向に敏感なセクターです。

値下がりセクターはありませんが、上昇率の小さかったところでは「銀行」、「情報通信・サービス」、「電機・精密」です。このところ顕著に値上がりしたセクターが落ち着いた動きとなりました。

出遅れ銘柄が買われ、動いた銘柄が休むという循環物色がてきめんに効いています。

値上がり上位の商社株では、三菱商事(8058)、三井物産(8031)を筆頭に、住友商事(8053)、丸紅(8002)、伊藤忠(8001)の5大商社が全面高となりました。いずれも上場来高値を更新しており、「バフェット効果」が存分に発揮されています。

世の中全体に再び物価の上昇圧力が高まってきたと見ることもできます。社会全体がすっかりインフレを前提とした経済状況に変化したことが象徴的に表れているようにも感じられます。

5大商社に続いて双日(2768)、豊田通商(8015)も物色され、岩谷産業(8088)、稲畑産業(8098)、長瀬産業(8012)、因幡電器産業(9934)などの専門商社も幅広く上昇しました。いずれもインフレ利益を享受できる業績好調の銘柄群です。

同様に「電力・ガス」も、中国電力(9504)、四国電力(9507)、九州電力(9508)など地方電力株からほぼ全面高の展開となりました。

規制料金の値上げ申請が通った直後に通期の業績見通しが出せるようになり、今期はいずれも大幅な増益が見込まれます。ここでもキーワードは「値上げ」です。

先週はさほど上昇が目立っておりませんが、引き続き半導体関連株を中心にエレクロニクス株がしっかりしました。

ソシオネクスト(6526)は週末の驚異的な上昇力で一気に上場来高値を更新しました。スクリーンHD(7735)、キヤノン(7751)も堅調です。検査装置ではアドバンテスト(6857)が高値圏に張りつき、東京精密(7729)は出遅れ感から急伸しています。

半導体株は5月相場であまりにも華々しい活躍を演じたばかりです。6月は一服するのは仕方のないところですが、それにしても押し目があってもすかさず買いが入ってきます。おっかなびっくりではありますが、半導体の周辺から離れられない状況が続いています。

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人工知能、ロボット、自動運転、空飛ぶクルマ、ドローン配達。株式市場では折に触れて人気化するテーマですが、現実の世界にお目見えするのはもう少し先のことかと思っていました。しかし現実はもっと早く動いています。すぐに社会に実装され、日常に組み込まれてあっという間に世の中を変えていきます。

新技術で人類全体が期待を寄せているのが、アルツハイマー型認知症治療薬です。先週末はバイオジェンと

(後略)

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