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2021年7月15日

米国の景況感を巡って乱高下、インフレトレードの巻き戻しが続く

鈴木一之

日経平均(9日大引):27,940.42(▲177.61、▲0.63%)
NYダウ(9日終値):34,870.16(+448.23、+1.30%)

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静岡県熱海市に続いて中国地方、九州地方が記録的な大雨に襲われています。被害に遭遇された地域の皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

猛烈な豪雨が全国各地に襲いかかっています。わずか24時間で普段の降雨量の1か月分の雨が降り注いだら土壌や社会インフラはとうてい受け止めきれません。

今年の東アジアは台湾で降雨量が足りず、製造工程で水を大量に消費する半導体産業の操業が危ぶまれたり、中国の広州周辺でも雨が降らずに上海周辺では計画的停電の恐れもある、などと伝えられていました。

それが日本に関しては平年をはるかに超える大雨が連続しています。これも地球温暖化の影響のひとつなのでしょう。雨空を見上げて被害がこれ以上大きくならないことを祈るばかりです。

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先週はマーケットの内部でも、あるいは世の中にも大きな変化がありました。大谷翔平選手がオールスター前に大リーグ記録に迫る33号ホームランを打つという、とびきりの明るい話題がありましたが、それを除けば暗いニュースがほとんどだったように思います。

世界中でコロナウイルスのデルタ株の感染拡大が続いています。インドネシアは医療崩壊の危機に直面しています。東京都も新規感染者数が徐々に拡大しており、とうとう4度目の緊急事態宣言を発令するに至りました。

東京オリンピックの開幕まで2週間を切り、東京都は7月8日(木)の5者協議で大半の競技場を無観客とする方針を決定しました。近代五輪史上、初めてとなる無観客での開催です。きわめて異例の事態となっていますが、海外メディアは無観客としても開催して本当に大丈夫なのか、と心配する見方がほとんどのようです。

先週は週初の7月4日(日)に東京都議選の投票・開票がありました。苦戦が予想された都民ファーストの会が善戦し、自民・公明は過半数の議席を取ることができませんでした。ここにも「五輪開催」が明らかに影を落としています。政府与党にとっては敗北に近い結果となり、次の衆院選が危ぶまれます。

それ以上にマーケットを揺さぶったのは、米国市場に景気のピークアウト感が漂い始めた点です。長期金利が急速に低下して、それが株価を揺さぶるようになりました。少し前は金利上昇に動揺していましたが、今や金利低下に揺さぶられています。

前の週の週末に米国の6月・雇用統計が発表され、非農業部門の雇用者数の増加は+85万人となりました。市場予測の70万人を上回ったものの、牽引役は宿泊・飲食業の+27万人で、製造業は+1万5000人の増加にとどまりました。
失業率も5.9%、前の月より+0.1ポイント悪化しており、どちらかと言えば「米国の経済状況は思ったほど強くない」という印象が残りました。

求人広告を出しても思ったように人が集まらないほどの人手不足が心配されていたほどで、このデータが発表された直後の米国マーケットの反応は、むしろこれでFRBは超緩和状態にある金融政策の修正を急ぐことはなくなる、との見方が優勢でした。「適温相場」の再来を好感する見方が強まり、7月2日(金)のNYダウ工業株は史上最高値を更新して引けました。
問題はその後です。独立記念日の祝日で3連休が明けた現地7月6日(火)の米国市場は、NYダウ工業株が5日ぶりに反落し▲208ドルを記録しました。瞬間的には▲400ドルを超える下げ局面も見られました。

この日の下げについて「景気がピークアウトしつつある」との見方が急速に浮上した模様です。前週末にS&P500は7日連続で史上最高値を更新していましたが、それが1日だけ下落したとたんに「景気のピークアウト説」が出てきたわけです。
かなり唐突な感じがありますが、この流れを受けて債券市場は大きく買われています。長期金利は1.35%まで低下し、2月下旬の水準に到達しました。長期金利の低下が言わせたような感触は拭えません。その後、1.3%割れまで金利は低下、価格は上昇しました。

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もうひとつのきっかけは7月6日(火)に発表されたISM・非製造業景況感指数です。6月は60.1となり、前月比▲3.9ポイントの低下となりました。

牽引役でもあったサービス業で回復ペースが鈍化してきたという見方が広がり、市場予想の63.3を下回ったことから、株式市場では景気敏感株が幅広く下落しました。

7月8日(木)の米国市場ではNYダウ工業株がさらに下落して、下げ幅は一時▲500ドルを超えました。世界中でコロナウイルスのデルタ株の感染拡大が広がり、米国ではワクチン接種の拡大ペースが鈍っています。
折しも日本では、東京都に4回目の緊急事態宣言の発令を決定されました。中国は滴滴(ディディ)に対する検査強化に続いて米国市場への上場も規制する方針が伝えられ、香港市場を中心にアジア各国の株価が軒並み下落したことも影響しています。

米国の長期金利は1.25%まで低下しており、2月以来の水準まで金利低下が進んでいます。ボーイング、キャタピラー、ダウなどの代表的な景気敏感株の株価が軟調で、航空会社の株価もさえません。米国株式市場は空前の高値圏にあるだけに、警戒的な動きが一気に広がったと見られます。

そして7月9日(金)。ここまでの神経質な動きなどまるで無かったかのように、NYダウ工業株は+448ドルも反発して、あらためて史上最高値を更新しました。長期金利が1.2%台から1.36%まで上昇したことが買いの手がかりです。金利上昇を株価が好感するなど、この辺が以前とはまるで違った動きです。

ほとんどすべてが「マーケット至上主義」です。予測不能の時代に入り、マーケットがどのように動くかによって人々の意思が決まっています。NASDAQとS&P500もそろって最高値を更新しました。

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ただし結局のところ、先週の動きのほとんどがこれまで積み上がった「インフレトレード」の巻き戻しという説明で片付いてしまうようです。
7月10日(土)の日本経済新聞にキャプラ・インベストメント・マネジメント(債券系ヘッジファンドの世界最大手)の浅井将雄氏へのインタビュー記事が掲載されています。そこで浅井氏が指摘している点は、投資家がポジション変更を強いられている実態です。以下に浅井氏へのインタビューの要点を抜き書きしておきます。

(後略)

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鈴木一之