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2022年7月21日

米6月CPIの発表を終え市場は鎮静化、NYダウは週末6日ぶりに反発

鈴木一之

◎日経平均(15日大引):26,788.47(+145.08、+0.54%)
◎NYダウ(15日終値):31,288.26(+658.09、+2.14%)

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安倍元首相の逝去という衝撃のニュースから一週間。いまだに動揺が収まらず、どこか落ち着かない毎日です。変化の速度が一段早まったのでしょうか。そう錯覚するほどに世間では重大ニュースが一度に噴出しています。毎日がかつてなくあわただしくなっており、短時間ではとても吸収しきれません。

先週の最大の出来事は米国の6月・消費者物価指数の発表でした。1か月前の今日、ここから株価の大幅安が始まった記憶が生々しく、それだけに世界中で大きな動きがとれないまま結果の発表を待った一週間となりました。

その米6月CPIは現地水曜日に発表され、前年比+9.1%の上昇となりました。前月の+8.6%、事前予想の+8.8%を大きく上回っています。

これによって来週開催される米FOMCでは「1.0%の利上げもあり得る」との見方が急浮上しましたが、それでも米国の長期金利は大きく上昇することはなく、株価も日米ともにグロース株を中心にしっかりした値動きが見られました。

結果論ですが、このCPIの発表で株式市場はそれまでの激しい値動き、ボラティリティの高い変動が収まりつつあり、マーケットはかなり目下のインフレに耐性をつけている模様です。

日経平均も終わってみれば、5日間の立ち合い日数のうち、上昇が4日、下落が1日、「4勝1敗」と勝ち越す状況がこれで2週続きました。NYダウ工業株が木曜日まで5日続落を記録するのとは距離を置いた展開となっています。

その他の重大ニュースは文末にまとめて記しておきます。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが続伸しました。と言っても上昇率は+0.27%にとどまり、前の週の+2.30%からは大きく後退しました。それだけ神経質な展開だったということです。

規模別指数では、すべての規模の指数が小さな動きにとどまりました。その中で大型株の上昇(+0.63%)が小型株の上昇(+0.20%)をわずかに上回りました。中型株(▲0.70%)はひとりだけマイナスでした。

同じように大型・グロース株(+0.76%)の上昇が目立っており、小型・バリュー株(+0.56%)をわずかに上回っています。グロース株有利の展開ですが、小型・グロース株と大型・バリュー株はどちらもマイナスでした。新興市場でも東証マザーズ指数は▲0.70%と小幅反落となりました。

テクニカル面では、日経平均のサイコロジカルラインは「7」から「8」の間で高止まりを続けています。騰落レシオは98.72で、100%前後に貼りついたままの状態です。株価指数は軟調な動きが目立ちますが、上昇する銘柄と下落する銘柄が頻繁に入れ替わっているため、その分だけ騰落レシオは中立的な状態にとどまっていると見られます。

東証REIT指数はわずかに反発しました。物流、商業施設のREITは出遅れ感からか堅調な動きとなりました。

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TOPIX-17業種のセクター別騰落では、値上がりセクターが8業種、値下がりセクターは9業種とちょうどふたつに分かれました。値上がりセクターのトップは「医薬品」、次いで「小売」、「自動車・輸送機」となりました。

「医薬品」の上昇は、武田薬品工業(4502)、第一三共(4568)、小野薬品(4528)の先駆した銘柄に加えて、エーザイ(4523)、ロート製薬(4527)、塩野義(4507)など次々と上値を追いかける銘柄が現われました。

物色がディフェンシブ的な銘柄、低ボラティリティ銘柄にシフトしていることが見て取れ正宇。それと同時に医薬品セクターに好材料が相次いでいることが背景にあります。新興市場のバイオ関連株にも同じような傾向が見られます。

内外投資家の組み入れ比率の高まりは、まず医薬品セクターに継続的に入っている模様です。これが他のセクターに循環的に広がってゆくかどうかが今後の大きなポイントです。それには景況感の改善が何よりも重要です。

値上がりセクターの第2位は「小売」でした。先週は2月/8月決算企業の決算発表がピークを迎え、通期の業績を上方修正したファーストリテイリング(9983)が久しぶりの好決算から大幅高となりました。

同じように吉野家HD(9861)、パルグループHD(2726)、サイゼリヤ(7581)などが決算発表をきっかけに買われ、決算発表以外でもコロワイド(7616)、ゼンショーHD(7550)、松屋フーズ(9887)が連想買いからしっかりした展開となっています。

コロナ感染の第7波が襲来したとしても、日本をはじめ先進国は国民への行動規制はできるだけ最小限にとどめる意向です。これが中国のゼロコロナ政策と決定的に異なる点です。そうであれば小売セクターの中には、十分に投資採算に乗る低バリューの銘柄が多く存在します。

にわかに景気動向へと市場の関心が集まった週ですが、景気敏感株の真ん中に位置する小売セクターが堅調な値動きを維持していることは十分に評価できます。

同じく値上がりセクターの第3位の「自動車・輸送機」でもホンダ(7267)、三菱自動車(7200)、NOK(7240)、エクセディ(7278)がしっかりした週でした。こちらは決算発表を来月に控えて、140円に迫る円安がじわじわと効いているように見られます。

反対に値下がりセクターの上位には「銀行」、「金融(除く銀行)」、「機械」が並びました。

銀行株は米国での長期金利の頭打ちが影響しているようです。バリュー株が不利となった週でもあり、実勢金利の低下を背景に物色対象がバリュー株から成長株にシフトしていることも影響しています。

景気動向に敏感な「機械」セクターは総じて突破口のつかめない、全体にもたついた印象の強い週となりました。

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最後に、先週起こった様々な出来事をざっと記録しておきます。

7月10日(日)、参院選の投票が行われました。終わってみれば自民党が単独で過半数を占める結果となり、改憲に必要な3分の2の議席も自民・公明・維新・国民の4党で確保するという圧勝となりました。

直前に安倍元首相が銃撃されるというショッキングな事件があり、それが自民党の得票数を伸ばした可能性があります。同時に、野党の選挙戦の戦い方が根本から問われているとも見られ、自民一強の時代が当分続きそうな勢いです。

岸田政権は今回の結果で、次の参院選までの3年間にわたって大きな国政選挙がない「黄金の3年」を手に入れたとされます。しかし実際にはそれほどの時間的な余裕はありません。自民党総裁選が2年後に予定されており、そこで岸田首相は最初の正念場を迎えます。

あるいはその前に現在の強固な体制をさらに万全にする目的から、岸田首相は衆院解散・総選挙に打って出るかもしれません。その可能性が早くも取沙汰されています。政治の安定期は意外と短い可能性があります。

いずれにしても岸田首相は、参院選まですべての政策実施を先送りしてきたことから、ここから真価を問われる日々が始まります。政治はしばらく夏休みモードで、焦点は8月末には浮上してくる次の閣僚人事、そして今年度の補正予算を含めた来年度予算案がカギを握ります。

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それに絡めてエネルギー問題が急務となっています。電力不足問題に向けて先週末、岸田首相は会見で原発9基を年内までに稼働させる方向を明らかにしました。これによって先週末は電力株が上昇する場面も見られましたが、上昇幅は限られました。

今回の計画では、年内までに稼働する原発は最大9基で、九州電力、関西電力、四国電力とすべて西日本に位置しています。電力不足が心配されている東日本管内の原発は含まれておらず、出力も最大900万kw、真冬の電力供給能力の5%に過ぎません。これだけでは抜本的なエネルギー不足の解消とはとても言えません。

今週は日本の各地で記録的な大雨が降り、7月12日(火)には埼玉県東松山市で住宅浸水や土砂崩れが発生しました。同じく15日(金)には宮城県東松島市で1時間の降雨量が100ミリを超え「記録的短時間大雨情報」が出されました。

宮城県大崎市では川の堤防が決壊し、埼玉と宮城の両地域で警戒レベル5(最高)に相当する「緊急安全確保」の避難情報が発令されました。このほかにも全国各地で土砂崩れ、道路の冠水が発生しており、不安定な天候が続いています。

豪雨や猛暑など異常気象は世界中で続いており、米国のテキサス州では熱波で気温が40度近くまで上がっています。エアコンの使用頻度が高まって、電力需要を抑えるため当局は節電を呼びかけています。フランスでも高温によって川の水温が上がり、冷却水の温度が上昇したことから、原発の出力を下げざるを得ないという事態が発生しています。

ロシアによるウクライナ侵攻で火力発電の燃料不足が深刻になっており、この夏の電力不足問題は世界的な広がりとなりつつあるようです。

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引き続きインフレ、物価の上昇がマーケットの最大の関心事です。冒頭にも触れましたが、6月の米CPIの発表を7月13日(水)に控えて、市場は極端に神経質になっています。1か月前の「5月・CPIショック」が尾を引いています。

事前予想は前年比+8.8%で5月の実績を上回る見通しでしたが、実際にはそれをさらに上回る+9.1%となりました。上昇幅としては40年ぶりのことです。FRBは来週のFOMCで通常(0.25%)の4倍に当たる1.0%の利上げに踏み切るとの見方が浮上しています。

タカ派で知られるセントルイス連銀のブラード総裁は、日本経済新聞のインタビューの中で、「インフレは峠を越えてなどいない。政策金利を2022年中に中立金利(2.5%程度)以上に引き上げるFRBの政策を裏づけている」と述べています。

その上でブラード総裁は、7月の政策金利の引き上げ幅は「0.75%を支持する」と述べました。1.0%の利上げには否定的です。FRBのウォラー理事も0.75%の利上げを支持しています。

一方でカナダ中央銀行は、7月13日(水)に政策金利に当たる翌日物金利の誘導目標を1.0%引き上げました(これで2.5%)。利上げは4会合連続、カナダ銀による1%の利上げは1998年8月以来、23年11か月ぶりのことです。また1%の利上げに踏み切ったのもG7加盟国では初めてのことです。

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7月15日(金)には中国の4-6月成長率が発表され、実質GDPは+0.4%の成長へと大きく後退しました。ゼロコロナ政策による経済活動の停滞が明らかになり、1-3月の+4.8%から大きく失速しています。

前期比では▲2.6%の減少で、年率換算すると▲10%程度のマイナスとなります。前期比マイナスとなるのは、コロナ禍の初期のダメージが明らかとなった2020年1-3月期以来のことです。中国政府が目指している「2022年は+5.5%前後の成長」という政策目標の達成はかなりあやしくなってきました。

7月13日(水)にFRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)が発表されました。そこでは5月以降、米国経済は穏やかに拡大したが「一部で需要に減速の兆しがみられた」と述べています。

ニューヨーク、クリーブランドなど4つの地区で景気の減速が報告されました。その要因として、人手不足、供給制約、ガソリン高、そしてインフレによる個人消費の陰りを挙げています。景気後退を懸念する声も目立っており、この報告が来週のFOMCでの議論の重要な資料となります。

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日本では2月/8月期の決算発表がピークを超えましたが、米国でも注目の4-6月期の決算発表が始まりました。トップバッターは常に金融機関です。

シティグループの4-6月期の純利益は

(後略)

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鈴木一之