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2023年5月29日

G7後も株価は堅調、日経平均は3万円台を固める動き

鈴木一之

鈴木一之です。引き続き株式市場が堅調です。日経平均の連騰記録は先週前半に8連騰でいったんは途切れましたが、それでも週末にかけて再び上昇力を強めています。

株高の理由はふたつ、円安と半導体関連株の高騰です。

今の株式市場は物色が特定の人気分野に集中しやすくなっています。値上がり銘柄と値下がり銘柄がはっきりと分かれるようになり、TOPIXは週末にかけて4日続落となりました。マーケットのどの部分を見るかによって、目の前の風景がかなり変わってきます。

それは警戒すべきシグナルなのか、それとも業績相場が強まって選別が始まっていると見るべきなのか。ここからの判断が大きく変わってくることになります。

短期的な調整はいつ入ってもおかしくない、と誰もが思いながらも、目の前の株価上昇について行かざるを得ない状況が始まっています(特に機関投資家サイドの問題)。

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1週間前にG7広島サミットが終わったばかりとは信じられません。それほど今週は密度の濃い1週間だったように感じられます。

週初は閉幕直後のG7広島サミットの余韻がまだ色濃く残りました。終盤にウクライナのゼレンスキー大統領が急きょ来日したことによって、3日間の日程の最後の方はウクライナ問題、安全保障問題にすべて議論が統一されてしまいました。

米国はこれまで認めてこなかったNATO加盟国によるF16戦闘機のウクライナへの供与を容認する方針に変わりました。ロシアに対するウクライナの大規模な反撃がより確実になると見られます。

日本も今年後半には法律を改正して、防衛装備品の輸出を解禁すると見られます。さっそく三菱重工業(7011)を筆頭に、川崎重工(7012)、コマツ(6301)、日本製鋼所(5631)など防衛関連株が一貫して堅調な値動きを示しています。

中国はG7の共同宣言で名指しはされなかったものの、「法による支配」が明記されたことに対抗して米マイクロン・テクノロジーの半導体の調達を停止する措置を発表しました。

マイクロンは前週末に日本に5000億円の増産投資を行うことを明らかにしたばかりです。これが週後半に起きた半導体株のフィーバーにつながる素地を作ったと考えられます。

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米国の債務上限問題が市場に揺さぶりをかけていることも事実です。

G7広島サミットへの出席ですら危ぶまれたバイデン大統領です。帰国してすぐにこの問題の協議を再開しました。簡単には合意は得られないと当初から見られていましたが、案の定、週の後半になっても交渉は進展しておりません。

米国の資金繰りが行き詰まると見られる「✕デー」のタイムリミットも、イエレン財務長官が主張する「6月1日」ではなく、少し遅れて到来するのではないかとの疑義まで浮上しています。

現時点でのリミットは「6月5日」までとなったようです。あと1週間、このような交渉のもつれが続くことになります。格付会社のフィッチ・レーティングスは、5月24日に米国の信用格付けの見通しを「ネガティブ」に引き下げました。

2011年にS&Pプアーズによって、米国債の格付けが史上初めてトリプルAから1段階引き下げられた状況を思い出します。当時はそれをきっかけに8月末にかけて株式市場が大幅安を記録しました。

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為替市場では円安が進んでいます。週末のNY市場では1ドル=140円台まで円安・ドル高となりました。昨年11月以来、半年ぶりの140円台です。

米国では債務上限問題とは別に、FRBの金融政策に関して再び「タカ派」的な見方が強まっています。

5月23日にS&Pグローバルが発表した5月の米国PMI(総合)は54.5(+1.1)でした。分岐点の「50」の水準を4か月連続で上回っています。水準自体も1年1か月ぶりの高いレベルです。引き続きサービスセクターの景気の強さが際立っています。

金融政策に関して、それまでの「6月会合での利上げは見送り、年後半には利下げも」というハト派的な見方は大幅に後退し、逆に「6月も利上げ継続」、「さらに7月も利上げ」というタカ派の勢力が急速に力をつけています。

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米国では週明けの5月29日が「メモリアルデー」で祝日です。この日から9月の「レーバーデー」の祝日まで、3か月間が米国では夏の旅行シーズンとされています。コロナ禍明けのリベンジ消費で、夏の旅行需要は例年以上に盛り上がると予想されています。

全米自動車協会は、「メモリアルデー」の連休を含む5月25-29日の全米の旅行者数が前年比+7%になると予想しています。コロナ前の2019年より+17万人も多くなり、全米では4230万人が自宅から80キロメートル以上遠くに旅行に出かけると見ているようです。これは2000年以降の20年間で3番目の記録となるほどの盛況だそうです。

旅行需要に代表されるように、サービス業の需要は引き続き拡大しています。利上げにもかかわらず非製造業の分野での米国経済の減速はほとんど見られません。それが賃金を引き上げて価格の上昇につながらないか。この点に特段の注意が必要です。

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一方、日本では大規模な金融緩和が継続しています。日銀の植田総裁は先週末にメディアと会見に初めて臨み、あらためて金融緩和を続ける方針を強調しました。

4月の消費者物価指数(総合)は前年比+3.4%と3か月ぶりに上昇率が拡大しました。しかし植田総裁は「物価は上がってはいるが、持続的・安定的ではない」との認識をあらためて強調しました。日銀は今年度後半には、物価は再び2%を割り込むとの見通しに立っています。

植田総裁は「見通しが誤っている可能性はゼロではない」と認めています。それでも現在のところは緩和継続の方針は揺るがないことが示されました。このことが円安・ドル高の進行を支えています。

円安は海外から日本への旅行者の増加、および輸出企業の業績の評価、ならびに外国人投資家による株式投資の活発さにつながっていると見られます。

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そして半導体関連株です。

前の週は岸田首相と半導体主要7社トップとの会合が市場を突き動かしました。先週はエヌビディアが驚くべき好決算を発表しました。

エヌビディアが5月24日(水)に発表した2-4月期の決算は、ゲーム用の画像処理半導体が巣ごもり消費の反動で減少したため、売上高は71億ドル(前年比▲13%)でした。しかし収益性の高い生成AI用が大幅に伸びたことから、純利益は20.4億ドル(+26%)の大幅な増加となりました。

続く5-7月期の見通しも、売上高で110億ドルとなっており市場予想(71億ドル)と大幅に乖離しています。株価はアフター市場で+28%も急騰することとなりました。

「ChatGPT」に代表される生成AIが世界的なブームを引き起こしています。グーグル、マイクロソフトの大手企業からスタートアップ企業まで、AIサービスの開発を急いでいます。それがエヌビディアの半導体の調達合戦となって現れています。

決算説明会でエヌビディアのジェンスン・ファンCEOは、「需要の急増に対して供給を大幅に増やしている」と述べました。まさに一夜にして評価が激変した典型的な事例となりました。

エヌビディアの株価は上昇を続け、一気に上場来高値を更新しました。時価総額は9600億ドルに達し、1兆ドルに迫っています。アップル、マイクロソフト、アルファベットに次ぐ「1兆ドルクラブ」入りが目前となり、これまでのAIブームがまったく新しい局面に入ったことが実感されます。

東京市場でもアドバンテスト(6857)、東京エレクトロン(8035)、スクリーンHD(7735)、イビデン(4062)、新光電気工業(6967)の半導体関連株が幅広く急上昇しています。

週末には西村康稔・経産相と米国のレモンド商務長官が会談し、経済安保に不可欠の半導体分野で技術協力する共同声明を出しました。

日米で共同研究、輸出管理の協力、人材の交流の領域で協調し、サプライチェーンを強化する工場集約などを盛り込んだ「行程表」を近いうちにまとめるそうです。半導体関連株は日米アジアの枠を超えて、押し目を交えながら息の長い物色が続きそうな気配です。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが7週ぶりに反落しました。日経平均は週末に上昇しましたが、TOPIXは4日続落で上昇に一服感が広がりました。ただし週間の下落率は▲0.73%と小幅にとどまっています。

規模別の騰落では大型株の優位が強まっています。週間の騰落率で大型株が▲0.51%に対して、中型株は▲1.06%、小型株は▲1.30%と小幅ながら大型株の優位が続きました。東証マザーズ指数は▲2.92%の続落と、かなり大きめの下げとなりました。

スタイル別では、バリュー株とグロース株の区別にそれほど差はなくなってきました。あえて言えば、大型バリュー株に物色の広がりが見られます。配当フォーカス100指数は週末も続伸しています。

日経平均採用銘柄のうち、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る銘柄数は103銘柄に増加しました。採用銘柄(225銘柄)の46%を占めています。

テクニカル面では、騰落レシオが5月16日に147.88%まで上昇した後、先週末は102.26%まで急低下しています。「120%超」の過熱状態から低下基調に転じ、1月23日以来の低水準となりました。

日経平均のサイコロジカルラインは週末に再び「10」の水準に戻っています。日経平均ボラティリティ指数は▲3.69%低下しました。

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TOPIX-17業種のセクター別騰落は、5業種が値上がりし12業種が下落しました。値下がりセクターが優勢となったのは久しぶりです。

値上がり上位のセクターは「電力・ガス」、「電機・精密」、「エネルギー資源」でした。反対に値下がりセクターには「小売」、「情報通信・サービス」、「銀行」となりました。

値上がりトップの「電力・ガス」は、中国電力(9504)の上昇が牽引しています。規制料金の値上げを経産省が認可したことで、中国電力が今期の業績見通しを公表したことがきっかけです。

リリースでは中国電力の営業利益は、前期の▲688億円の赤字から今期は920億円の黒字に転換します。最終損益も590億円の黒字となり、今期は年10円の復配に踏み切ります。

電力料金の高騰は家計と企業の双方にとって大きな痛手です。しかし電力会社の収益が安定しないことには産業界全体が困ります。年後半のどこかで衆院解散・総選挙もスケジュールにのぼる公算が高まっています。原発再稼働の問題を含めた抜本的なエネルギー政策の議論が前進することが期待されそうです。

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値上がり第2位は「電機・精密」です。既述のように半導体関連株が全面高となっていますが、それ以外でもTDK(6762)、村田製作所(6981)、ヒロセ電機(6806)の電子部品株や、オムロン(6645)、日東工業(6651)、三菱電機(6503)など設備投資関連のエレクトロニクス企業がしっかりしています。

反対に値下がりセクターのトップには「小売」が登場しました。インバウンド消費関連株が週半ばに大きく下落したことが響いています。

中国で再びコロナ感染が拡大しています。6月に入ると感染第2波が襲来するとの見通しで、三越伊勢丹HD(3099)、

(後略)

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鈴木一之